2013年4月26日掲載
要約
ランダム化臨床試験において、センチネルリンパ節に少数の癌細胞(微小転移)のみが認められる乳癌女性では、腋窩リンパ節郭清(ALND)を実施した患者の方が、実施しなかった患者に比べて副作用が多く発現する一方、無病生存期間には改善がみられないことが判明しました。
出典 Lancet Oncology March 11, 2012(ジャーナル要旨参照)
背景
2000年代の初めまで、患者が乳癌手術を受ける場合、外科医は腋窩リンパ節郭清(ALND)と呼ばれる術式によって多数の腋窩リンパ節(腋の下にあるリンパ節)の切除も行っていました。癌の腋窩リンパ節への転移の有無を知ることは、医師にとってさらに化学療法やホルモン療法のような全身治療を患者に行う必要があるかどうかを判断する助けとなっていました。しかし、腋窩リンパ節郭清は、リンパ浮腫、疼痛、腕の運動障害などの深刻な長期的副作用を引き起こす可能性があります。
2000年代の初め以降、センチネルリンパ節生検(SLNB)が浸潤性乳癌女性の病期判定に用いる標準術式となっています。この手法では、腋窩リンパ節郭清に比べて長期的副作用が少なく、癌が転移する際に最初に到達すると思われるリンパ節(センチネルリンパ節)のみを切除して癌細胞の有無を確認します。センチネルリンパ節に癌細胞が認められない場合、他のリンパ節を切除することはありません。
しかし、センチネルリンパ節に癌細胞が見つかった場合に腋窩リンパ節郭清が常に必要かどうかについては明らかではありませんでした。2011年、ACOSOG Z0011臨床試験の結果から、センチネルリンパ節に乳癌細胞が認められた女性の一部で、腋窩リンパ節郭清の実施を避けても生存確率が低下しないことが示されました。IBCSG 23-01試験では、さらにセンチネルリンパ節転移陽性の女性における腋窩リンパ節郭清実施の意義が検討されました。
試験
IBCSG 23-01試験は、ACOSOG Z0011試験の約3年後に開始されました。ACOSOG Z0011試験と同様、IBCSG 23-01試験では、乳房手術およびSLNBを受けた女性を、腋窩リンパ節郭清を実施する群または実施しない群に無作為に割り付けました。両試験とも、5 cm以下の浸潤性乳癌を有し、リンパ節触知の認められない女性のみを対象としました。
両試験の適格基準にはいくつか違いもありました。IBCSG 23-01試験では乳房温存手術または乳房切除術のいずれを受けた女性であっても参加可能であったのに対し、ACOSOG Z0011試験では、乳房切除術を受けた患者は除外されました。また、IBCSG 23-01試験では、センチネルリンパ節転移が2 mm以下(微小転移)の女性に限定されたのに対し、ACOSOG Z0011試験では、これより大きなセンチネルリンパ節転移の患者の参加が可能でした。最終的には、ACOSOG Z0011試験では、転移陽性のセンチネルリンパ節が2つ以下の患者の参加を可能としました。
2001年から2010年までの間に、研究者らは931人の女性を腋窩リンパ節郭清を実施する群(464人)または実施しない群(467人)のいずれかに無作為に割り付けました。試験の主要評価項目は、無病生存期間、すなわちランダム化から再発(乳房または他の部位)、二次性乳癌の発現、または死亡までの時間としました。
すべての女性は、フォローアップのため1年目は4カ月ごと、その後は6カ月ごとに最長5年間来院しました。
結果
両群の腫瘍特性は同様でした。全体で約70%の女性が2cm未満の原発腫瘍を有し、腫瘍の90%がエストロゲン受容体陽性でした。大部分の女性(91%)が乳房温存手術を受け、そのうち98%が放射線治療を受けました。両群のほぼすべての女性が、ホルモン療法、化学療法、またはその併用療法を受けました。
5年間のフォローアップ後、腋窩リンパ節郭清を実施した女性の約84%、センチネルリンパ節生検のみを実施した女性の約88%が無病で生存していました。また、腋窩リンパ節再発率は、両群とも極めて低いものでした。これら同等の転帰は、腋窩リンパ節郭清群の患者の13%でセンチネルリンパ節以外の腋窩リンパ節に癌細胞が見つかっているにもかかわらず達成されました。このことは、腋窩リンパ節郭清を実施しなかった群の一部の女性にも腋窩リンパ節に癌細胞が存在していた可能性があることを示しています。
予測された通り、腋窩リンパ節郭清を実施した女性では、実施しなかった女性よりも副作用が多く発現しました。例えば、リンパ浮腫は腋窩リンパ節郭清群の女性の13%に発現しましたが、郭清手術を実施しなかった群での発現は3%に過ぎませんでした。
制限事項
ACOSOG Z0011試験とIBCSG 23-01試験のいずれも、予定を下回る数の参加者を登録しており、このことが両試験の結果の頑健性を制限している可能性があります。また、患者や主治医は、これら2試験の結果を、両試験が対象としなかった集団にそのまま当てはめることのないよう注意する必要があります。
コメント
「IBCSG 23-10試験の結果は、ACOSOG Z0011試験の結果とあわせて解釈することで、実臨床のあり方を変えるものとなる」とCambridge University Teaching Hospitals TrustのJohn R. Benson医師は付随論説の中で述べています。「ACOSOG Z0011試験の結果を受けて、すでに多くの乳癌治療施設が、センチネルリンパ節生検で微小転移のみ陽性の患者に対する腋窩リンパ節郭清の実施をとりやめている。IBCSG 1-23試験の結果は、この実臨床における変化を支持するものであり、乳房切除術を受ける患者の一部に腋窩リンパ節郭清を実施しない正当な根拠となっている」。
著者らは、IBSCG 23-01試験で腋窩リンパ節郭清を実施しなかった患者の一部にもリンパ節転移が存在した可能性はあるものの、ほとんどすべての患者が、残存する癌細胞を排除しうる何らかの形の追加治療を受けたことを指摘しています。腋窩リンパ節郭清を実施しなかった群では、乳房温存手術を受けた女性の98%が放射線治療を受けました。また、腋窩リンパ節郭清を受けなかった女性の95%が、全身の癌細胞を殺傷しうる化学療法、ホルモン療法、またはその併用療法を受けました。
「患者はこれらの結果について主治医と話し合うべきです」とNCIの乳癌治療部長であるJo Anne Zujewski医師は述べています。「一部の患者、特に放射線治療と化学療法およびホルモン療法の併用療法、またはそのいずれか一方を予定している患者では、腋窩リンパ節郭清の実施を回避できる可能性があります」。
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原恵美子 翻訳
原野謙一 (乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)監修
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